〜「ゴッドandモンスター」が辿る数奇な運命〜

第71回(1999年度)のアカデミー賞で1本の映画が脚色賞を受賞した。ビル・コンドンの手による「ゴッド and モンスター」 "Gods and Monsters"である。ユニバーサル映画草創期の名作「フランケンシュタイン」の監督であるジェームズ・ホエールを描いたこの作品は「シン・レッド・ライン」「シンプル・プラン」「アウト・オブ・サイト」といった下馬評が高かった他の作品をおさえて栄冠をえた。しかしながら質の高さは認められたものの、その地味な部分がわざわいしてかアメリカでもヒットにはいたらず、またアカデミー賞の発表時には日本公開が決定していなかった。そしてそのままこの作品は日本で劇場公開されることなく、ビデオ化されることが決定した。しかしそんな中でこの作品を愛するがゆえに、ぜひ劇場で公開して欲しいとサイトで活動を続けた方が、今回メールインタビューさせていただいた「玉石混淆」という個人サイトの運営者、たけうちみかさんである。今回のたけうちさんの活動とその経緯は映画が持っているビジネスとアートという2つの側面の中で、クリエイターとファン、そしてその間をつなぐ興行・配給関係者とマスコミの責任とは何かを考えさせてくれる。

 

出発点 「ゴッドandモンスター」という作品とは?
私はこの作品がアメリカで批評家の賞賛をあびていることは知っていたので、とても興味がある作品だった。するとが突然『キネマ旬報』誌で1日だけ特別に上映会が行われることが告知された。この作品を知っていた私にすれば「なぜ1日だけ?」、知らない方にしてみると「1日だけの上映しかされない作品って?」  私はすぐにチケットを購入し、この上映会で見ることができた。いったいどういうことだったのか、そのあたりもふまえて、まず作品についてからお聞きしてみた。
−『ゴッドandモンスター』という作品との出会いについて教えてください

竹内さん「もともと私はイアン・マッケランのファンでして、ちょうど『ゴールデンボーイ』と『Gods』が続けて公開された頃にアメリカの雑誌にかなり記事が出たのを読んだのがはじめです。ほとんどJ・ホエールや映画の内容については知りませんでした。その後、賞レースでどんどんクローズアップされたことで一層関心が高まり、アメリカのビデオ発売を待って購入しました」
−作品に対してどのような感想を持たれましたか?
竹内さん「それを聞かれるのが辛いんです。一言では言えないから。『第一印象』で言えば、『うちのめされた』という感じでしょうか。深夜にひとりで見て、泣いたりはしませんでしたがただぼーぜんとしていました。それでもどこか後味はあたたかく爽やか。本当に一言では言えません。軽妙でどこかキャンプなユーモアと暗い死の影、明るく色彩豊かな『現実』とゴシックな『幻想』、 そういった相反する要素を巧みに織りあわせた脚本と映像。どちらも緻密かつ丁寧に組み立てられています。あと、やはり三人の主演俳優の隙の無いアンサンブルが大きいです。
言えば言うほど陳腐になってきてしまうのですが・・・そんなところでしょうか」
−どのあたりが一番気に入られたのでしょうか?
竹内さん「それは本当に一言では言えません。軽妙でどこかキャンプなユーモアと暗い死の影、明るく色彩豊かな『現実』とゴシックな『幻想』、 そういった相反する要素を巧みに織りあわせた脚本と映像。どちらも緻密かつ丁寧に組み立てられています。あと、やはり三人の主演俳優の隙の無いアンサンブルが大きいです。言えば言うほど陳腐になってきてしまうのですが・・・」
−確かに言葉で伝えるのは難しいタイプの作品ですね。では見てもらいたかった部分というのは?
竹内さん「ユーモア、かなあ。『幻想的』とか『死』『ホラー』という部分はかなり露出していたから』

主演のイアン・マッケラン(左)とブレンダン・フレイザー
−私もイアン・マッケランの演技は本当に素晴らしいと思いました。この映画はそれだけでも十二分に見る価値があると思います。竹内さんが考えているマッケランという俳優の魅力をもう少しお聞かせください。
竹内さん「これを語り出すと100MBくらい行ってしまいそうですが(笑)。『Gods』でも明らかなのですが、私がナマで彼を見た時に一番感銘を受けたのは、『一挙手一投足が完璧』ということです。演技に無駄なものが無いのです。どんな些細な目線の動きでもすべて演技として完成されている、それでいて決して機械的な計算ではなく、経験と本能で計算しつくされている。彼は学校ではなく、実地で経験を積んだ役者さんなのでそれは理屈ではないのです。あと、とにかく『自分を崩す』のが好きな人ですね。汚れ役や老け役大好きです(笑)。とにかく色々な役をやって、楽しんで化けるタイプです。この映画に対して、自分でも『共通点が多かった』と言っているので、地が出ているかのように誤解されやすいのですが、普段の彼はホエールとは全く違います。まったくもって一分の隙も無く『ホエール本人』でした。といっても私も知らないのですが、知っている人も言っているので(笑)」
この作品を日本でも多くの人に見てほしい!
−ネットにて紹介サイトを立ち上げたのは8月初旬となっていますが、全米公開からかなりたっています。なぜサイトを立ち上げようとしたのか、動機を聞かせてください
竹内さん「えーと、『サイト立ち上げ』と『委員会の結成』はちょっと時期的にも違うのでその辺を区別して頂けるとありがたいです。サイトを立ち上げたのは6月。私がビデオを見てすぐです。どうも公開の見通しも不透明だった事から『とりあえずこれを世の中に紹介したい!!』ということからでした。『委員会』を発足したのが8月で、これは単に私が7月に留学していて留守だったからです。ネット上で親しくさせて頂いている方々が何人かご覧になって、皆さんとてもこれを好きになって下さったので、それではこれを広めよう!ということで冗談半分に組織しました。のちにブレンダンファンの方々でやはりビデオを見た方や、映画にとても関心を持って下さっている方、あえて見ないで上映を待っていた方々が参加して下さいました」
−反響はいかがだったでしょうか?
竹内さん「もともとお付き合いのあった方を除いては、すぐには反応はありませんでしたね。いちばんリアクションがあったのはブレンダンのファンの方々でしょうか。ちょうど『ハムナプトラ』のヒットでファンが急増していたところで、彼の評価を変えた作品、また『尊敬している』とあちこちで言っていたマッケランとの共演という事で非常に関心が高かったです。あと、もっと後になってから(有料試写の話が出てから)『アカデミーからずっと気になっていた』というような反応を多く頂きました」
−サイト立ち上げにさいして、何か目標みたいなものはあったのでしょうか?  たとえば劇場公開であるとか、ビデオ発売であるとか・・・
竹内さん「サイト立ち上げ時には、まさか劇場公開がないなどということは夢にも思っていなかったので、『公開前の前宣伝』程度にしか考えていませんでした。委員会にしてももちろん『公開実現』を盛り上げるためでしたが、まさかこんなことになるとは・・・。具体的に目標として『劇場公開』を打ち出したのはちょっと雲行きがあやしくなってから、でしょうか」
−そんな活動の中で日本での劇場公開へ向けてのはたらきかけはどのようにしてはじめたのでしょうか?
竹内さん「最初はどこが権利を持っているかわからなかったのでいろいろな配給会社にメールを出しまくりました。そんな中で、日本で権利を持っているのがギャガ・コミュニケーションズ(以下ギャガ)だということを知ったのは9月に公式サイトにメールを送って、コンドン監督のパートナー、J・モリシーさんから回答をもらった時です。それまでは『どこが買ったか』を配給会社などにあたって探していました。ギャガが配給元だと知ってから、まず『早く公開して下さいね』というメールを出しました。この頃は信じていたんですよ、まだ。時間はかかるだろうけど公開しないなんてことはありえないという頭だったので(笑) 9月あたまですね。皆さんメールやはがきなどでギャガにリクエストを出して下さいました。あとブレンダンがらみで映画雑誌などに『みたい』という声を寄せて下さった方もいました。もう少し後になって映画館への手紙・メールなども出しました。またこの時『プレミア』などを初めとするマスコミ・雑誌にもメールで訴えました。残念ながら取り上げてくれたのは『TVTaro』誌の鬼塚さんと『プレミア』誌の杉本さんの記事だけでしたが」
−ギャガの反応はいかがでしたか?
竹内さん「まず初めにメールを出してから2週間なしのつぶて、でした。9/18にメールがきました。概要は委員会ページに抜粋してあります。ちょっとがっかりでしたね」
−そのあと状況が変わっていくわけですが・・・
竹内さん「はい。このあと2ヶ月間にわたり何度も出していた状況確認メールを無視されている間に『ビデオ決定』という情報が、ギャガとはまったく無関係な方面から流れてきたんです』

ビジネスとアートの狭間で
この作品はとても大規模に公開されるタイプではないのは容易に想像していただけると思う。ギャガも当然単館で公開するつもりでいたのだろう。ところがこの年の単館興行を検証すると異常なほどの大成功を記録していた年だった。3ヶ月以上のロングラン作品が多数あり、小屋が足りないという状況だった。岩波ホールの「宗家の三姉妹」(約8ヶ月)、シネクイントの「バッファロー'66」(約10ヶ月)、他にも「ラン・ローラ・ラン」「セントラル・ステーション」「運動靴と赤い金魚」などがあり、そんな中で地味なこの作品が入り込む余地がなかったというのは推測できる。この年は他にもジョン・セイルズの「真実の囁き」 "Lone Star" などが日本での単館実績などがあるにもかかわらず、そのままビデオ行きの憂き目にあっている。ちなみに単館公開は一度ブッキングが決まってしまうとなかなか変更することができない。さらにいうと前の作品がロングランなどになってしまうと、タイミングをはかっての効果的なパブリシティがうてないなどのデメリットもあるそうだ。

また実はアカデミーの脚色賞のような技術関係のものは興行的なメリットはそれほどあるわけではない。1980年以降をひもといてみると
1980 オ:メルビンとハワード
色:普通の人々#
×
1990 オ:ゴースト#
色:ダンス・ウィズ・ウルブス#

1981 オ:炎のランナー#
色:黄昏#

1991 オ:テルマ&ルイーズ
色:羊たちの沈黙#

1982 オ:炎のランナー#
色:黄昏#

1992 オ:クライング・ゲーム
色:ハワーズ・エンド#

1983 オ:テンダー・マーシーズ
色:愛と追憶の日々#

1993 オ:ピアノ・レッスン#
色:シンドラーのリスト#

1984 オ:プレイス・イン・ザ・ハート#
色:アマデウス#

1994 オ:パルプ・フィクション
色:フォレスト・ガンプ#

1985 オ:刑事ジョン・ブック目撃者
色:愛と哀しみの果て#

1995 オ:ユージュアル・サスペクツ#
色:いつか晴れた日に

1986 オ:ハンナとその姉妹#
色:眺めのいい部屋

1996 オ:ファーゴ#
色:スリング・ブレイド

1987 オ:月の輝く夜に#
色:ラストエンペラー#

1997 オ:グッド・ウィル・ハンティング#
色:L.A.コンフィデンシャル#

1988 オ:レインマン#
色:危険な関係

1998 オ:恋におちたシェイクスピア#
色:ゴッドandモンスターズ

1989 オ:いまを生きる
ロ:ドライビング・ミス・デイジー#

1999 オ:アメリカン・ビューティー#
色:サイダーハウル・スール#

オ:オリジナル脚本賞 色:脚色賞 単:単館公開 ロ:チェーンによるロードショー公開 ビ:劇場未公開、ビデオのみ
#:主要6部門(作品、監督、主演男女優、助演男女優)を受賞している作品
この表を見ると全40本中、まったくの未公開は1本のみ。ビデオ化のみも2本とかなりの高確率なように見えるが、実はからくりがある。というのもほとんどの作品が脚本関係以外にも主要部門を受賞していることが多い。それを除いてみると12本中、ロードショー公開されたものは5本のみ。あとは単館公開が4本、ビデオのみが2本。全くの未公開までも1本ある。つまり興行的価値が必ずしも付加されるわけではないということだ。
−やはりがっかりという感じでしたか?
竹内さん「そうですね。ブレンダンの人気がかなり出ていたし、こういうものは軽く1,2年はかかることが多いので、まさかそんな拙速なビデオリリースになるとは全く思ってなかったんですよ。それにビデオ化に関してはある程度、決まったのであれば仕方の無いことだと思っていましたが、最初のメールで『進捗があれば報告する』と言っておきながらよそに情報がリークするくらい決定的な段階になるまで、いや、なってからも(笑)ひとことも連絡が無かったということの方が、誠意がないなあとがっかりしました。そこで再度、ほとんど詰問のような(笑)メールを出しました。また私のサイトでの掲示板もかなりヒートアップしていたのを見たようで、やっと『会いたい』という連絡がきました」
−ギャガさんとはどんなお話をされたのか、差し支えない範囲でもう少し詳しくお聞かせください。
竹内さん「プレミア誌上に出たような今までの経緯の説明と、有料試写の計画があることを教えて頂きました。また邦題について、『全員のお願い』として変えてくれと頼んだのですが、ご存知の通りあのままです。もう、かえられないような段階までその時は進んでいたのです(筆者注:竹内さんは邦題を『ゴッドandモンスターズ』にしたことに憤慨されている。このあたりの経緯は竹内さんのサイトをご参照ください)」
−有料試写についてはいつごろギャガ社内で決定したのでしょうか?
竹内さん「分かりません。だって11月に『やる方向で』と聞くまで無視されてましたから」
−その決定は自分たちのはたらきかけが影響しているとお考えですか?
竹内さん「一応向こうもそう言っていますし、そうだったと信じたいですね」
−正直なところギャガさんは後手後手にまわってしまった印象があります。
竹内さん「本当ですね。やはり買った後の対応があまりに拙すぎた気がします。たとえば有料試写に関しても悪意はないことは分かったのですが、あんなに対応が遅いと『誰も買っていなかった小さいくせに高い映画を買ってやった、要望の声が高かったのであなたたちのために赤字覚悟でフィルムを焼き、有料試写もしてあげましょう』というふうに取れなくもないような感じに聞こえてしまいましたから」
−今回ギャガさんとの意見の相違点はいわゆる商業的な部分が大きいと思います。配給会社もビジネスである以上、様々な考えのもとに決断をするわけです。『ゴッドandモンスターズ』は全米公開時、レビューはよかったものの興行成績は芳しくありませんでした。そのことはご存じでしたか?
竹内さん「いいえ。最初に見たときはしりませんでした。あんまりUSボックスオフィスには気を配っていないので。ただアメリカでももともと配給にこぎつけるのも苦労した作品ですから、それは不思議なことではありません。ゲイという題材に対してアメリカは特に異常な程保守的ですから。だからといって、これが数多の賞をさらったあと、しかも宗教的反発の無い日本で公開さえされない理由にはまったくなりませんが」
−ビデオ発売されるだけでも充分では・・・という意見もあるかと思います。なぜ劇場での上映に竹内さんはこだわられたのでしょうか?
竹内さん「ご存知かと思いますが、世の中で『公開される』ものと『ビデオ直行』の作品とでは世間の認知する『格』が段違いです。ビデオを狙った作品でも箔をつけるためにちょっと公開する、というやり方もあるくらいですから。変な紹介を付けられて、いっぱひとからげのB級作品と同等に扱われるのはこの作品に関わった一流の人々に対して不当であり侮辱だと思ったからです」
−竹内さんがこの作品をギャガさんに公開するよう迫ったのは大ヒットするという理由でなく、こんな素晴らしい作品をなぜ劇場で上映しないのかという点だと私は理解してよいでしょうか?
竹内さん「ギャガさんのラインナップをみると、作品の質はもちろんのこと、興行的にもなぜこれが公開されて『Gods』が・・・そう思うわけです。もちろんそんな風に埋もれてしまう秀作は山のようにあるわけですが、それ以上に作品の質と格に相応しい正当な扱いをしてほしいということなんです。下世話な次元ですが、賞の数、みて下さいよ(笑) これほどの『格』のある作品に付いては買った方にも絶対に、作り手や評価した世界中のメディア、そして日本の観客に対してObligation(義務)が生じるはずです。極論を言えばアートという側面をもっている映画を扱う商売人として、そういう責任感覚がない者は、アートを扱う資格がないと思うんですよ。ディーラーと同じです」
−また作品に対する思い入れ度という点でもギャガさんと竹内さんではかなり温度が違う気がいたします。もっと率直に言ってしまえば 竹内さんはギャガさんにとってけむたいファンだったかもしれないわけですが(失礼な表現でスミマセン)竹内さんの印象としてはいかがですか?
竹内さん「いや、そう思われてますでしょ(笑)。広告などで使われた『奇跡の一日限定公開!!!』て文、ご覧になりましたか?『メール攻撃』『一部の熱狂的なファン』という言い方は、いかにもこわいクレーム集団みたいで、ちょっとショックでした。悪気はないのでしょうが、実際そんな感じで我々を非難するような匿名の書き込みが(掲示板に)あったこともありました。あの頃はかなり辛いものがありました。まあ、忙しいのは事実でしょうが,結局こちらが口を出すことができなくなるほど話が進んでからしか情報はもらえません。ちらしの内容も相談してもらえるという話でしたが、上記の文が掲載されたものが勝手に発行されていました」
−ただ少し失礼を承知で言うならば『ファンはリスクを背負っていない』立場であるという点は否定できません。この点はどうお考えですか?
竹内さん「その通りです。だから最終的に決断を下すのは会社としてのギャガさんであり劇場です。それが責任ある、納得のできる決断であれば仕方ありません。ただ、我々はお金を払って映画を見に来ている『消費者』であり、客としてどういう『商品』が欲しいのかということを『お店』に意見する権利はあると思います。義務でもあると思います。少なくとも、そういう意識が業界に薄く、観客の方も一方的に『こういう物が好きだろう』と業界が判断したものを受け取るだけ、という現状はおかしいし、今回のことがそこにちいさな一石を投ずる結果になったのであれば嬉しいです」
ゴール地点はここではない
−2月25日に有料試写が渋谷東急3で行われました。チケットの売れ行きはいかがでしたか?
竹内さん「
『ぴあ』に直前まで告知が出ず、やはり直前の『キネ旬』とHP告知がすべてだったにも関わらず当日立ち見が出ました。超レイト、一日限りで来られない人も大勢いたのに、です。私に言わせれば当然、とは言え嬉しいことでした。ギャガさんがまるで信じられないというかのように凄いと騒いでいるのが、私にしてみると『あったりまえでしょ!』て感じで、・・・(笑)」
−観客の反応はいかがでしたか?
竹内さん
「予想をはるかに越えるよいテンションが感じられました。なまの舞台でもめったにないようなノリがありました。字幕がちょっと・・・だったので、少し心配していたのですが、みんなちゃんと作品のユーモアにも反応して。拍手が出た時は本当に嬉しかったです」
−あの有料試写をどう評価するかなのですが、竹内さんは成功と評価されて いますか?
竹内さん
「成功だと思っています。前回も書きましたが超レイト、一日限り、しかもほとんどパブリシティのない状態で立ち見が出たということは驚異的です。アンケートをうちのサイトに上げていますが、来場者の50%以上が『HPでこの上映会を知った』と答えています。これはもちろんギャガのサイトやeiga.comなども入りますが、やはり希有なことでしょう。『ネットでの盛り上がり』がこの上映会を実現させ、成功させたのだと思います。もうひとつにはこれも前回かきましたが、客席のとても良いテンションです。こんな体験は後にも先にないと言うくらいの『劇場体験』で、『映画館で皆と一緒に見る』ことの楽しさの見本のような上映でした。最後に拍手が自然に起こったのも嬉しいことでした。皆さん終電ダッシュだったのは申し訳ないと思いましたが」
−通常の映画ビジネスを考えると、劇場上映→ビデオ発売でいったん完結します。そういった意味ではこの作品もすでにギャガさんの中ではビジネスとしては『終わった』作品だと思うのですが、あの試写の後、何か状況は変わりましたか?
竹内さん
「実際ギャガとしてもフィルムを焼いた以上、劇場公開をしたいという気持ちでおられるので、あの試写にも劇場関係者を呼んでおられたようです。あの客席の盛り上がりを見て考えて下さったのなら嬉しいですが」
−有料試写のあとの動きについて、少しご報告いただければと思います。状況としてはいかがでしょうか?
竹内さん
「まだ何もオープンには言えない状況だそうです。一応今レイトショー公開にむけて調整中ということで、いくつかオファーなどもあるようですし、前向きに期待していきたいと思っています。ネット上での動きも、実はあります」
−竹内さんの報告のページで私が一番印象に残ったのが『これが我々のゴールではありません。引き続き活動していきたいと思っています』という言葉です。ビデオ発売もされ、とりあえず劇場でも上映されました。では竹内さんが考えるゴールとはいったいどこにあるのでしょうか?
竹内さん
「それは簡単、前述しましたが『正当な扱いがされること』。一言で言うならちゃんとした劇場公開です。何も知らずに連れてこられたような友人の彼氏が何人も感動してくれました。そういう、『元から行く気』の『コアな映画ファン』以外の人達にも『面白そうかも』くらいの感覚で見て欲しいんです。絶対誰でも何か引っかかることのできる作品だと思うので。ま、好みもありますが(笑)」
−このようなケースが成立したというのは素晴らしい出来事だと思います。無論未公開になりかけたという不幸なケースはできるだけ避けられるべきですが、現状を考えると今後もそういったケースは避けられそうにありません。そういった時に今回のような方法でファンが行動することで再びこういった素晴らしい出来事は起きていくのでしょうか? それとも今回だけの特別な出来事なのでしょうか?
竹内さん
「起きていって欲しいと思います。そして『観客』側がまとまって意見を発することの出来るネットと言うメディアの発展がそれを可能にしています」
−これから竹内さんの人生でまた素晴らしい映画と出会うことと思いますが、もしそれがまた今回と同様な不幸にあったらどうされますか?
竹内さん「うーん、状況次第でしょうね。今回はいいことも悪いことも重なりに重なってこうなっていますから。直接関係者の方から連絡を頂けると言う幸運がなければ、そしてこれほど不幸なことになっていなければ、ここまで深入り(笑)はしなかったと思いますから。本当に、ここまで頑張れたのは他の皆さんの協力と、何よりずっとメールで励まし&援護して下さったジャック・モリシー氏の心遣いのおかげだと思います。改めてこの場でお礼を言いたいと思います」

インタビューを終えてみて、竹内さんがとにかくこの作品に対してとても真摯であるということだった。それはクリエイターが精魂込めて作り上げたアートに対して、当然とるべき姿勢であるという誠実さである。象徴的な出来事としてこの作品ビデオ・DVDで販売されているが、DVDでワイド版があたりまえの今時のご時世にありながら4:3版で発売されている(オリジナル劇場サイズはシネスコ) またその紹介文がなんとも奇妙な紹介文でとんちんかんという表現しかあてはまらないようなもの。竹内さんに思わず「(ゴッドandモンスターの)ビデオとDVD、ひどいですね」と言ったら、「ひどいでしょう」というあきれはてたお答え(笑)。結局私たち映画ファンが大切にして欲しいことはそういうところなのではないだろうか? そんな中でよい作品をよい環境でみたいという願いを実現する力がホームページのサイトでなんとかなるかもしれないというのは、新しい希望といえよう。そしてファンが持つ責任はということも考えていきたい

取材協力:たけうちみか(文中敬称略)
インタビュー&文:じんけし

おまけリンクデータ

たけうちみかさんの「玉石混淆」ホームページ
*今回の上映までの経緯や作品情報などが掲載されています。
http://www02.u-page.so-net.ne.jp/ka2/take-m/