↑2度目のリバイバル時のチラシ

映画界は「2001年」の
夢をみるか?

−公開データでみる「2001年宇宙の旅」リバイバル検証&
 ヴァージンシネマズ名古屋ベイシティ4 鑑賞記−

−前章−

 最悪の事態を迎えようとしていた。『2001年宇宙の旅』」のことである。そもそもやばいなあとは思っていた。昨年の東京国際ファンタスティック映画祭のクロージングとして上映されたときに70ミリプリントが作られなかった。私は渋谷パンテオンで1度リバイバルを体験していたし、今回はデジタル音響になるので、どこかのシネコンでみられるだろうとたかをくくっていた。まあ、時代かなあというあきらめもあった。シネラマでの上映だとか、今はなきテアトル東京や、中日シネラマ劇場での上映とか、ないものねだりはするつもりはない。アメリカなんかすごいことになっているが、ここは日本。35ミリでの上映もいたしかたなしと自分で納得もしていた。しかし私の目を覚まさせたのはシネラマリボンの騎士さんのホームページだった。なんということだろうか。大々的な上映にはならないどころか、大画面での上映すらのぞめない状況だという。しかも。よりによって関東圏での上映が本来は商業演劇上演が目的の劇場でしか上映されないとは何事であろうか。目の前がくらくらした。

なぜ大型スクリーンでないとだめなのか?

 でも「なぜそこまで大きなスクリーンにこだわるのか?」を疑問に思われる方も多いだろう。誤解の内容に行っておくと私は映画館でみることにこだわりがある人間ではあるが、何でもかんでもでかくなくてはだめだと言うつもりはない(この点は前章のあきらめ方で察していただけるだろう) しかしこの作品は理論的に、そして私の個人的体験から言って、大きなスクリーンでないと作品の本質が変わるのである。
まずこの映画自体がかなり特殊なフォーマットで製作されていること。キューブリックはシネラマ方式の上映を念頭に置いた。シネラマ方式というのは商業用長編映画(アイマックスなどの中短編映画フォーマットは除く)の中ではもっとも大型のもので、縦横比はなんと1×2.88! 当初は3台の映写機を使った装置だったが、システムの簡素化を図り、1台での映写も可能になったシステム。ちなみに1台での映写を可能にするためにはフィルムの解像度の高さを要求されるので、65ミリネガ(上映時にサウンドトラックが追加され70ミリになる)を使うスーパーパナビジョンで撮影・現像された。もちろんシネラマの上映館は画面が大きい。この映画のスケール感を感じるためには大画面は必須と考えたキューブリックの意図をくみとるには出来る限り大きな画面でといえるのではないか。また言い方を変えると大きい画面ならみえるという前提で撮影されている箇所も多数有り、小さなスクリーンでは小さな何かとしか認識できない部分もあるわけだ。

資料1:日本で作られた『2001年宇宙の旅』プリントフォーマット

プレミア公開版
(米国)
171分 シネラマ(スーパー・パナビジョン) 1×2.88 6chステレオ はたしてプリントは現存するのか?
ロードショー版 152分 シネラマ(スーパー・パナビジョン) 1×2.88 6chステレオ これがオリジナル。前奏、休憩、退場音楽つき。
70ミリ版 152分 70ミリ 1×2.0 6chステレオ 前奏、休憩、退場音楽つき。
35ミリスコープ版 141分 35ミリ 1×2.35 モノラル 前奏、休憩、退場音楽なし。
35ミリスコープ版 152分 35ミリ 1×2.35 4chステレオ 前奏、休憩、退場音楽つき。2度目のリバイバルで作られたプリント。
35ミリスコープ版 152分 35ミリ 1×2.35 ドルビーステレオ版
(アナログ)
3度目のリバイバルで作られたプリント。
35ミリスコープ版 152分 35ミリ 1×2.0 ドルビーステレオ版
(デジタル)
今回のリバイバルで作られたプリント。縦横比が通常のスコープサイズと違うのは変則的に焼き付けているため。なお音響は現在確認しているうち、SRD、dts、SDDSの3種類での上映がされているので、それぞれの信号が焼き付けられていると思われる。

 また私自身の個人的体験からもそう言い切れる。最初にみたのはTVで。淀川長治先生解説の日曜洋画劇場にて。ひとり14インチのTVにかじりついてみたが、なんのことやらさっぱりわからず。当時小学生で『スター・ウォーズ』のような作品を期待していた私はラストにぼうぜん。こんな映画がなぜ映画史に残る名作なのか理解に苦しんだ。ところがそれから数年がたって、中学3年生の時。むさぼるように映画をみはじめたころ、なんかないかと思って渋谷をぶらぶらしていたら、時間があったのが渋谷パンテオンでのリバイバルだった。大して期待もせずに入場したら、最初の序曲(もちろん初体験!)でなんだろうという期待が高まり、オープニングでは鳥肌が立った。あのつまらなくてつまらなくて仕方がなかった作品が、自分のこころを強くゆさぶった。無論映像から物語をよみとるという事も少しずつできるようになってきたことも大きいとは思う。しかし画面の大きさという要因は間違いなく大きかった。それを証明したのが1995年のリバイバルだった。リバイバルがあるという情報を知った私は楽しみにしていたところ、なんとブッキングされたのが銀座文化というミニシアター(その中でも小さめの部類に入る) 私は渋々出かけたが、そこでみたのは輝きが半減した別物の『2001年』だった。さらに言うならば。私は『2001年』ではシネラマ上映を体験していないが、別の作品でシネラマ上映を体験している。したがってその素晴らしさを体感している。あの作品があんな大きさで体験できたら。まさにそれは夢であった。

『2001年宇宙の旅』に興行力はないのか?

 今回私が最大の疑問を持っている点が、なぜリバイバルロードショーとならないのかという部分である。それなりに大きなチェーンで公開して、宣伝費を投下した場合、回収できないほどの興行力しか持ち合わせていないのかどうか。この点に私は大いに異を唱えたい。

資料2:日本での上映記録

公開期間 上映劇場(プリント) 備考
1 1968/04/11〜
1968/09/18
テアトル東京(シネラマ) 記念すべきロードショー。ちなみに前日に有料試写があった。この当時は拡大公開という概念はないので、東京・大阪で各1館のみ。ともにシネラマによる上映だった。なおこの年の興行ベストテン第4位のヒット。ちなみに1位は『卒業』
2 1969/03/01〜
1969/04/04
テアトル東京(シネラマ) 前年のロードショーの成功をうけての凱旋公開。
3 1978/10/28〜 テアトル東京(シネラマ)
 〜12/15
新宿武蔵野館(70ミリ)
 〜12/8
有楽座(70ミリ)
 11/3〜12/15

※ムーブオーバー(35ミリ)
有楽シネマ
 12/23〜1979/02/09
新宿グランドオデオン
 1979/01/13〜02/09
渋谷パレス
 1979/01/13〜02/09
これがもはや伝説なっている10年ぶりのリバイバル。秋シーズントップクラスの大ヒットとなり、ムーブオーバーを含めてなんと年をまたいでの興行となる。この作品の真価をみせつけることとなり、日本のリバイバルに関する常識を覆した。ちなみにシネラマでの上映はこの時が最後。それから数年後、東京シネラマ上映最後の砦テアトル東京は閉館となる。
4 1979/10/27〜 日比谷スカラ座(70ミリ)
 〜11/16
新宿プラザ(70ミリ)
 〜11/02
渋谷東宝(70ミリ)
 〜11/02
※ムーブオーバー(70ミリ)
テアトル東京
 11/17〜12/7
この頃はCIC(現UIP)は困ったときの「2001年」とばかりに、つなぐ役やピンチヒッターとして上映するようになる。結構最後の上映時のプリントには痛みがひどかったらしい。
5 1980/5/30〜
 1980/06/12
松竹セントラル(70ミリ)
新宿ミラノ座(70ミリ)
渋谷パンテオン(70ミリ)
現在、この時が最後の70ミリ上映。
6 1983/11/19〜 ニュープリント版
(4chステレオ版)
有楽座(35ミリ)
 〜12/09
新宿プラザ(35ミリ)
 〜12/02
新宿スカラ座(35ミリ)
 〜12/02
渋谷東宝(35ミリ)
 〜12/09
2度目のリバイバル。ちなみに前回のリバイバルはSWの最初の公開年。今回はジェダイの公開年。以下の公開ではこの時のプリントが使用されている。
7 1984/09/08〜
1984/09/12
松竹セントラル(35ミリ)
新宿ミラノ座(35ミリ)
渋谷パンテオン(35ミリ)
この時に私は渋谷パンテオンにてふらっと鑑賞。生涯忘れえぬ感動を味わう。
8 1985/05/11〜
1985/06/27
『2010年』との併映
日比谷スカラ座(35ミリ)
新宿スカラ座(35ミリ)
続編とセットというとんでもない試み。でも結構お客さんがきたようで・・・(汗)
9 1995/02/03〜
終了日不明
ニュープリント版
(ドルビーステレオ版)
銀座文化2(35ミリ)
もはや思い出したくもないとんでもない条件下での3度目のリバイバル公開。これならばよく練られたホームシアターの方がよいだろうという中での鑑賞は本当に寂しかった。

 リバイバルロードショーはあたらないという不文律があるのが日本の興行界(例外が『2001年』というのは何という皮肉!) どの会社も消極的だ。権利関係やプリント管理の問題などいろいろあるが、特にビデオ全盛のころからこの流れは加速している。しかし都内の映画ファンの方は分かると思う。このリストのほとんどの映画館はキャパシティが大きいところばかりなのだ。しかも公開日数をみていただきたい。たとえば4、5や7のように不入り作品のピンチヒッターとなった場合は別にして、それ以外の時はそこそこの日数となっている。だいたい6のように東宝のメインチェーンで1ヶ月の興行をはれるほどの旧作がどれだけあることだろう。この映画は間違いなくリバイバルに耐えられる作品なのだ。ところが風向きが変わってきたのが9の時。じつはここから配給権がうつっている。それまで1、2はMGM。それ以降はMGM系列作品も配給するようになったCIC(現UIP)。ところが9は日本ヘラルド。MGM作品の権利関係は話が相当ややこしいらしく、私も詳細まではしらない。

2001年、名古屋で起きた小さな奇跡

 さて今回である。今更シネラマ劇場が存在しないことを憂いていても仕方がない。70ミリでの上映がないこともあきらめる。でもその中でベストのコンディションでみたい。映画史上に残る、私も生涯のベストワン作品が、記念すべき2001年にこのような扱いしかされないとは、本当にかなしい。しかし今回きくところによるとプリント数がかなり少ないという話を聞いた。シネラマリボンの騎士さんの調査によると、当初の上映予定館はUC札幌、ルテアトル銀座、名古屋グランド4、VC名古屋、VC泉北、WMC茨木、AMCキャナルシティ。このうちSR上映というデジタルリミックス版のウリを考えているのかどうかわからない名古屋グランド4、それから本来は映画館ではないルテアトル銀座は論外としよう。そこでその中の映画館でどこでもいい。せめて1日、いや1回だけでも最大キャパの場所で上映してくれるように頭を下げるしかないと考えた。特にVC名古屋は現在日本での最大スクリーンをもっているし、UC札幌ならば、IMAXスクリーンでの上映なんぞも考えられる。しかしながら現実はかなり厳しい。そう「ハンニバル」が手ぐすね引いて舌なめずりして、HAL9000すら食べてしまおうという勢いなのだ。でも何人かの方が動いていらっしゃる。私もいてもたってもいられず問い合わせの電話を数件、そして手紙を書いた。あまり期待せずに。
だが奇跡は起きたのだ。ヴァージンシネマズ名古屋ベイシティが、最大キャパ、そして日本最大級のサイズをもつTHX認証のスクリーン4で一週間だけ朝1回のみの上映を決定したのだ。本当にこれはうれしかった。

 この映画館、日本でも屈指のクオリティを誇っている。スクリーンが大きくなるとバランスがどうしても崩れやすくなる。しかしここはトータルパッケージとして非常に完成度が高い(昨年のレポートも参照してください) 鑑賞したのはスクリーン4での上映が始まって2日目、4月15日(日)。期待に胸ふくらませていよいよ上映の時。
 最初の序曲。これはやはり映画館ならではの効果。まるでリラクゼーションのような気持ちで別世界への扉へと導いてくれるかのよう。そしてシンボリックなMGMのロゴの後、あのタイトルバック。「ツァラトゥストラはかく語りき」と共に地球、そして太陽。ああ、なんと美しい画面だろう。きっと宇宙とはこれほど大きく美しいものなのだと想起させてくれる。宇宙の映像などみることが少なかった初公開当時の観客の衝撃は、今宇宙の映像をみることなど珍しくもない私たちでも変わることがない。そしてこれほど音楽と相乗効果が見事な画面も数えるほどしかない。「人類の夜明け」 ダイアログがほとんどない短い時間で有史以来の人類の世紀を見せきってしまう巧みさ。場面変わって「美しき青いドナウ」の宇宙場面では久々に映画で酔いそうになった(笑) あああ、ぐるぐるまわるぅぅぅ。そしてこのあたりが未だに睡魔におそわれる(笑) ところがディスカバリー号の場面になって再び画面は緊迫。この映画の魅力の一つにみるたびに何か発見があるというのがあるが、今回の再見でもっとも印象が変わったのここである。最初HAL9000という存在は、あの無機質な声と共に怖いというイメージが強かった。それから人間はテクノロジーを過信してはいけないなと思った。ところが今回、HALが初めて可愛そうに思えた。いくら人工知能とはいえ、HALは乗組員からあまりにもむげに扱われているような気がしたからだ。こう思ったのはきっと実世界が進んで生命とはなんぞやという議論がされていたり、また『攻殻機動隊』『マトリックス』のような意識という概念を描いた映画をみたり、何よりもキューブリックが次回作として長年企画をあたため、いよいよスピルバーグによって映像化される『A.I.』が人工知能の哀しみを描くということなどが背景にあるからであろう。HALという存在が切なかった。そして人間という存在が本当に人類の次に進化する権利を手にする資格があるのか、あのときHALのみが生き残っていたらどうなったのだろうかと考えると、考えさせられたHAL消滅の時だった。その次の無限の彼方へのトリップはやっぱり映画館は最高! そして最後のスターチャイルドが我々をどう見つめているのか、まさに今2001年の地球にいる私たちは・・・そう考えるととても1968年の映画とは思えない深さを持って、そして見終えた後に大きな余韻を残す名作であることを再確認できたのだ。

 上映は大変シャープ。70ミリの縦横比を再現しているので両サイドに黒味がある(できればスクリーンのカーテンを調整して欲しかった) また音響はさすがに元が古いので期待したほどのクオリティではなかった。でも充分楽しめるレベルにあったことは述べておきたい。でも全然問題がなかったわけではない。いくつか気になったことがある。まずプリントの状態。プリント自体はかなり綺麗だった。70ミリプリントとの比較だが、これは70ミリをみていないので出来ない。ただし推測としてあげておくのは、現在の35ミリプリントのクオリティを考えるとそれほどのアドバンテージはないのではないだろうか? これは35ミリをブローアップした作品をそれなりにみていて、また『遙かなる大地へ』のように70ミリで撮影され、70ミリで上映されたプリントにそれほどの明快な優位を感じなかった点。したがってこれに対するこだわりは前ほどではなくなった。が、ひとつとても気になったことがある。それは褪色である。これは前回よりもすすんだ気がしてならない。色ののり方が悪いのだ。これはおそらくマスターのネガ自体の問題だろう。どの段階から今回のプリントを起こしたのかわからないが、他の名作と同じようにレストアをきちんと行っておかないとという不安を感じた。

− 終章 −

 私がこのサイトを立ち上げて1年ちょっと。私自身は映画産業とは関係のない門外漢だが、でも一映画ファンとしていいたいこと。取材やさまざまな交流の中で感じていること。それはファンと配給会社の温度差である。娯楽が多様化してきている中で興行側は必死に生き残りの道を模索している。しかし配給側の仕事ぶりに時代の流れを認識していないのではと感じてしまうことが多い。でも。今回のリバイバルまた風向きが変わってきたのも事実だ。ワーナーは当初上映館の拡大、上映期間の延長は考えていなかったという話だったが、ファーストラン終了後、他の映画館でも上映されることになった。関東でもAMCイクスピアリでの上映が決まった。これもまたうれしいことだ。
 最後にヴァージンシネマズのスタッフのみなさまには映画ファンの声に耳を傾けて柔軟な対応をしていただいたことに心より敬意を表したい。残念ながら満員の客席とはいえなかった。できればホームページや劇場などで、その価値をアピールしていただくとよかったかと思うし、私のようなファンでもっと力になれればと思った。でも重ねて述べたい。こんなに素晴らしい快挙をなしとげてくれた映画館に私はただ頭を下げるのみだ。またシネラマリボンの騎士さんやTHXオタッキーさんのような方々が声を上げていただかなかったら、私はどうしてよいかわからず、ただ銀座で憤慨していただけだろう。心あるファンのみなさんにも敬意を表したい。

 それにしても。私は『2001年宇宙の旅』という作品が2001年にこのような仕打ちを受けるとは夢にも思っていなかった。はたして今回の出来事をみなさんはどう受け止めるだろうか。これほどの名作をベストな状況で楽しむことが難しい映画界。キューブリックはきっと不適な笑みをうかべてみつめているに違いない。私はもう少し考えてみたいと思う。(文:じんけし)

リンク集
映画館を語るページ
シネラマリボンの騎士さんのサイトです。この方に問題提起していただかなければ・・・そう思うと感謝感謝!です。

掲示板
THXオタッキーさんの運営する掲示板です。東海地方のシネコンを自分の足で確かめてレポートされています。

ヴァージンシネマズ

映画館が好き!
当サイトのマンスペ記念すべき創刊号。大型映画館の特集などがあります。

UCI岸和田&VC名古屋鑑賞記
2000年7月に訪れた際のレポートです。