ヴァージンシネマズ(以下VC)が2002年4月19日、ついに神奈川県に進出しました。関東圏では千葉県市川市、東京都南大沢についで3ヶ所めですが、このニュースがとてつもないインパクトを持っているのが進出した場所に大きな意味があるからです。そこは神奈川県海老名市。そう、あのワーナーマイカルシネマズ(以下WMC)が初めて作ったシネコン1号館がある場所だからです。しかも距離は目と鼻の先。商業劇場初のTHXシアターがあり、まさにWMCの原点ともいえる記念すべきシネコン上陸の地に、真っ向勝負の直球を投げ込んできたといえます。さらにフタをあけてみるとそれはとてつもないスケールの160キロ級の剛速球でした。ここしばらく登場したVCの新館は味気ないものが多く、前ほどの意気込みを感じなかったのですが、やはりやるときはやってくれました!という感じで、今回の海老名についてレポートです。斬新な発想で常に業界に話題を提供してきたVCと、シネコン業界のパイオニアとして一大興行網を持つ存在になったWMC。シネコン業界の覇権を握る戦いは、シネコン上陸から約10年後、再び海老名から新しい局面が幕を開けようとしています。 |
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考え得るすべてのノウハウが投入された究極の映画館 | |||||||||||||||||||||||||||||||
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『コラテラル・ダメージ』(VC海老名2 SRD+THX) | |||||||||||||||||||||||||||||||
続いてここは2番スクリーンですが、感じとしてはVC市川の1番をコンパクトにした感じです。でも音については久しぶりにぶっとびました。これほどの音圧はうまれてはじめて。イスも震えんばかり。正直最初の予告編のあたりは耳障りだったのですが、耳が慣れると心地よく、大きいだけでなくドライブ感もあり表現力も豊か。JBL独特の乾いたアメリカンシアターサウンドの底力を感じさせるサウンドを体感できました。本編はアクション映画ということもあって、ツボにはまったすごい音をきかせてくれました。ただダイアローグが中心になるドラマではどうなるか興味があります。それともうひとつ感心したのが、入り口が二重扉になっていたこと。これは遮光対策だと思うのですが、大歓迎です! | |||||||||||||||||||||||||||||||
『シュレック』(VC海老名1 SRD+THX) | |||||||||||||||||||||||||||||||
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『光の旅人』(WMC海老名2 SR) | |||||||||||||||||||||||||||||||
他方迎え撃つWMCはどうか? 同日WMCにも足をのばしてみました。さすがにこの日はビナウォークが物珍しさもあって終日にぎわっていたのにたいして、こちらはサティも含めてやや閑散とした印象です。ただしWMCも手をこまねいているわけではなく期間限定のスタンプサービスをはじめたり、VCではやらなくなった座席指定時の位置確認などをするようになったりしています。あらに海老名ではサービスデスクをいうものを設置し、コンシェルジェのようにお客様のさまざまな要望に対応できるようにしたようです。これは面白い発想です。で、時間があいたので1本みることにしたのですが、まさかそんなことに。そう、映画ファンをなかしてきたあのトラブルです。なんとアナログ音声での上映! ああああああああああ!(笑) いろいろとサービスもいいですが、まずこういう基本的なところはおさえてもらいたいところです。強く要望したいと思います。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
後発であることを強みにするVCの展開 | |||||||||||||||||||||||||||||||
そもそもWMC、VC、ユナイテッドシネマ(UC)、そしてAMCの外資系シネコン大手4社のうち、最初に日本上陸をはたしたのはWMCで、海老名に第1号館ができたのが1993年。つまり今から約10年前。そのころショッピングセンターの中に数館の映画館を入れるというのは、キネカ大森などの例はありましたが、それが興行の本流になることはなく、海老名のような町に新設館が、しかも7館もオープンするというのは、映画界の常識にはありませんでした。なぜ海老名という土地が選ばれたのか? これには特に必然性があったわけではありません。しいていうならばWMCの場合、マイカルのショッピングセンターで「サティ」や「ビブレ」の中に併設されますので、出店計画があったということが最大の要因になります。ではそんな出店計画の中で初めての試みがなぜ海老名になったのか? これはさまざまな要因が複合的に重なったためだといえるでしょう。以前きいたことがあるのが、出店計画の中で最もリスクが少ない土地を選んだという点。ニュアンス的に、ここにはこれは商圏がそれなりにひろい、交通のアクセスがよい、周辺の地価が安い、周囲にライバルとなる映画館が少ないということが含まれていたようです。もうひとつは今後のパイロットケースにしたかったという点、これは今後の出店計画の中で候補地に神奈川県が多かったことが関係していたのではと推測されます。 ではなぜほとんどの映画人が今日のシネコンの隆盛を予想できなかったか。理由が2つあります。ひとつは海老名のような地方都市では観客が集まるわけがないという立地上の常識が暗黙のうちにあったのと、減少を続ける映画人口の問題。つまり興行側には決定的な解決策がない、暗澹とした時代であったともいえました。そこに日本初のTHXシアター、自由定員制、ドリンクホルダー、おいしいポップコーン!をひっさげて登場したWMC海老名、当初はがらがらだったものの、やがて7スクリーン合計の年間動員数が年間動員数No.1が指定席の日本劇場から奪い取るという快挙を成し遂げます。やがて10年たった今、シネコンは興行界に大きな影響力を持つ一大潮流となり、映画館の基準すら変えてしまいました。映画館の設備としてはデジタル音響が当たり前となり、THXシアターが多数建設され、サービス面では立ち見のない各回定員制が既成の劇場にも定着しはじめ、ドリンクホルダーがシートについているのも珍しくなくなりました。その震源地がまさに海老名だったのです。 他方VCは福岡県の久山に初上陸。他社がWMCをほぼ追随する手法をとっていた中で、VCは差別化を鮮明に打ち出してきました。全館全席指定、プレミアスクリーンという別料金のハイクラスサービスシアターの設立、さらにその象徴が1999年11月、千葉県市川市にオープンしたVC市川コルトンプラザ。なんと9スクリーンすべてがTHXシアターという常識外の仕様。その後も続々とシネマイレージというポイントサービスやオールドエイジ向けの名画上映プログラムなど、設備だけでなくサービス面でも新機軸を打ち出します。これらは後発の強みであり、VC海老名はそのメリットをフルにいかしました。 VC海老名がすごいのは現在考えられるシネコン成功のプラス要素がすべてつまっているのです。まず立地ですが、もともと車を使う人間が多い地方都市的な要素を持ちつつも、実は小田急線と相鉄線の乗換駅であるターミナルでもあり、しかもほぼ駅前に近いという完璧な状況。そして隣接する施設も集客能力がある大型ショッピングモール。しかもWMCが10年かけてシネコンという文化を住民に啓蒙してきたところですから、受け入れる文化も成熟しています。また映画館自体もポイントサービスや座席指定、ネット予約など現状で考えられるサービスがほぼ網羅されており、さらにはうるさ型の観客も黙らせる質を誇っています。皮肉なのがTHXなどという言葉がかけらもなかった日本に初めて持ち込んだパイオニア、WMCがさんざん自分たちでアピールしてきたTHXシアターですら、全館認証という形でVCが逆に売り物にしているという事実です。 WMCにしてみると自分たちが追うものだったのが、まさか追われる側になるとは予想だにしていなかったことでしょう。海老名に関していうと10年の差はやはり明確で、客の立場としては新しい方を選んでしまうかなあという感じがします。しかしこの勝負は逃げることはできません。結果は共存か、壊滅かしかないのです。 |
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新次元での戦いがはじまった | |||||||||||||||||||||||||||||||
では今後何が勝負のわかれめとなるか? これは3つの要素があげられます。 <魅力的な独自の番組編成ができるか?> VCのように10スクリーンあっても日本の興行すべてを網羅できるわけではありません。またWMCもVCも自チェーンのみでの上映をに関するノウハウを持ち始めています。どれだけ独自色を出したブッキングができるかというのは大きいと思います。 <斬新なサービスを提供できるか> VCのシネマイレージが、WMCのドリンクホルダーが、映画館の基準を変えてしまったように、やはりチェーン全体でいろいろとサービスを考えていかないといけないでしょう。停滞は後退を意味します。 <日常の接客レベルの向上> これが一番大きいのではないでしょうか。アルバイトだからではすまされません。一度の不快な思いは命運をわけかねません。 この戦い、現段階で形勢はVCにかなり有利です。WMCはビジネスパートナーであるマイカルの倒産により新規オープンが停滞している事態もあり、WMC海老名のリニューアルなどは難しいかもしれません。しかし、かといってVCの勝利は誰も確信できません。WMCにも固定客はいるでしょうし、混んでいるのはいやだという人もシネコンには多いでしょう。また今なおWMC海老名の7番スクリーンほど、熟成したJBLの音をきかせてくれる映画館がないのも事実です。またシネコンが採算をとれるラインは流動的でしょうし、WMCが目指す現状の方向性、すなわちスタンダードレベルのシネコンでローコストローリターン的な戦略が正解であれば、ハイコストのVCが自滅したり、両者勝利というシナリオも考えられます。さらにこの戦いは海老名のみでは終わりません。神奈川県内には今後もシネコンが続々と建設予定ですし、この地域での勝利は必ずしも全国での勝利にはならないからです。私がいえることはただひとつ。もはや戦いはよりハイレベルなところではじまったということだけです。 |
文:じんけし 2002.05記