VC南大沢鑑賞記
不況が続く現在の日本の中でWMCのパートナー、マイカルの倒産などマイナス要素が大きいにもかかわらず、このあとも関東だけでも続々と新館オープンは続いていく。映画産業が特に右肩上がりの成長でないのにいれものだけが増えていくこの状況で、映画館はどんな価値を得ようとしているのか? すでに映画界の一大潮流となったシネコンは今の映画界に何をもたらしているのか、新規オープンの映画館をレポートしながら考えていく緊急連載。第1回はヴァージンシシネマズ(以下VC)南大沢レポートです。 |
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VCは海老名(2002年4月)、六本木とオープン予定ですが、どんな映画館を都内1号館として作ったのか、大変興味がありました。というのもVCはプレミアスクリーンという差別化を図ったり、市川を全館THXで開館したり、シネマイレージというポイント制度を導入したりと、シネコン大手の中でもかなり先鋭的な劇場運営のイメージがあったからです。しかも劇場の作りはかなり贅沢で、今まで経験している市川と名古屋は廊下も広く、空間をひろびろと使っていました。オープンしたのは2001年12月22日。場所ですが、京王相模原線南大沢駅です。駅からおりてすぐにみえるfabという建物の中にあります。なおこの駅前は他にラフェット多摩というモール、イトーヨーカドー、パオレなどが集まっているゾーンですので、いろいろと楽しめると思います。最近のシネコンの立地として、いわゆる郊外型のショッピングセンターに併設するよりも、駅前のショッピングセンターの方が集客により効果があるというデータがあるそうで、今回の立地もその点をみたしています。スクリーンの数は9こで、そのうち1つはプレミアスクリーン、さらにTHXシアターが3つあります。なおVCはホームページにはきちんと音響が明記してあるのに、肝心なロビーにはありません。ロビーでぜひ知りたいところです。 |
お客の側に負担を強いる効率優先設計 | |||
最初に感じたのは今までの市川や名古屋が赤がメインだったのとは違い、使われている色調がベージュがメインでとても落ち着いていること。それからロビーのレイアウトが効率重視のレイアウトになっていたこと。どちらかというWMCのテイストに近くなってきていました。 また東大沢は建物の形状が細い長方形なのでレイアウトに相当苦心したことが伺えます。しかしこの効率重視のレイアウトという印象は、このあと様々なところで私の気分を滅入らせました。劇場の効率重視とは一言でいってしまうとどれだけ人件費を切りつめられるかです。そのために少ない人数で多くのお客様をさばくことになるわけですが、この東大沢ではそれだけお客の立場に負担を強いています。まず劇場入り口の配置の関係で移動がものすごく長いこと。右図をみていただくとわかりますが、従来のパターンですと赤丸のところが入り口ですが、黄色の矢印が実際の入り口でした。すると通路奥にある4、7や8は奥の方までかなり歩くことになります。またトイレの配置もベストとはいえません(数もすごく少ない) でも最大の問題点は何といってもコンセッション(売店)が下のフロアにしかないことです。つまり何も知らないお客様が「ドリンクは上で買えばいいや」と思って上のフロアにあがった場合、わざわざ下のフロアに下がらなくてはいけないのです。キャパシティの合計で言えば上のフロアの方がお客様の数は多くなる可能性があるにもかかわらずです。効率優先でいけばこういうのもありでしょう。でもこれはサービスの低下以外なにものでもありません。 | ↑黄色の矢印がそれぞれの劇場入り口、赤丸が一般的な位置。またコンセッションが4Fの赤のところしかないことなどもわかる。 |
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サービスの質が問われる | |||
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↑各シアター入り口にはその劇場の概要とシート表。音響表示はなし。 |
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今回、私が感じたこと。以前書いたようにシネコンが効率を求めだしたこと、それがVCのように業界へのアンチテーゼをばんばんやってきたところでも避けられない状況になってきたということです。でもそれはシネコンがこれから抱える問題ではありませんし、この部分の結論を出す時期にはまだはやいかもしれません。なぜなら今回南大沢で私が感じたことは、南大沢での採算ラインがそこにあるからであって、日本全国の映画館がすべてトップクラスになる必要はありません。おそらくVCも、目の前にWMCがある海老名や、都心へのシネコン進出のはしりとなる六本木では、またきっと何かしらかましてくれるだろうという希望はあるからです。 今回最大の問題は実はここではありません。本当の大問題、それは『ハリー・ポッター』であり、2001年夏の異常事態であり、今後も再び起こるであろうあの事態、そう人気作品の集中による上映スケジュールに関してです。シネコンによってよりバラエティにとんだ作品を、よい環境で鑑賞できるはずが、俗にいう一本かぶりという、人気作のみしか客が入らないという日本興行街の悪しき現状を助長しはじめています。これは我々の想像を絶します。(第2回につづく) |
文:じんけし 2002.01記