−WMCつきみ野&UC入間レポート− |
大攻勢が続くワーナーマイカルシネマズ(以下WMC)。この秋も関東地方に大宮、熊谷、つきみ野にオープンするが、中でも注目はともに1つのTHX認証劇場をもっている大宮とつきみ野だ。春にオープンした板橋の立地がいかに衝撃的なものかはすでにレポートしましたが、この2館の登場は別な意味で非常に興味深いです。一方追随する他社も次々に新館をオープン。UCIはいよいよ関東に初見参となるUC入間をオープンさせました。はたしてWMCはつきみ野をどのように位置づけているのでしょうか。今回はWMCつきみ野とUC入間をレポートしながら、WMCが作り出してきたシネコンの潮流、そして今後のシネコンの行方を考えてみたいと思います。 |
チャーリーズ・エンジェル(WMCつきみ野9 SRD+THX) |
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オープンしたのは2000年11月9日。まず最初にロケーションを確認しておきますと、東急田園都市線つきみ野駅から徒歩15分(小田急線南林間駅からも徒歩15分です) つきみ野SATY内にあります。が…正直徒歩圏ではないですね(汗)。完全に郊外型のショッピングセンターで、この点が今までの県内4館(いずれも駅からは徒歩10分圏内)とは傾向が違います。他にも今回WMCつきみ野の立地に関してはいくつかの興味深い点があります。まず現在すでに4館あった神奈川県内(マイカル松竹本牧もいれると5館)に、また新たにオープンさせたこと。そして今までは各地区にだいたい1館しか作っていなかったTHX認証劇場を神奈川県内では海老名に続いて作ったことにあります。WMCは今までもやろうと思えばTHX館を作れたにもかかわらず、コストの点から「同じ値段をかけるならば、全部の劇場のグレードを底上げしたいと」と作ってこなかった経緯があります。それをふまえるとこれは施設としては古い部類になった海老名にかわって新しい神奈川WMCのエースとなることを意味するのか、それとも今後はTHXもスタンダードになることを意味するのか、どちらなのでしょうか? |
訪れたのは2000年11月11日。オープンして最初の土日ということでSATY店内は大混雑でした。ロビーの感じは板橋に似ています。まあ今のWMCの標準タイプ。しかしここで「おやや?」 トイレがない?と思ったらとてもわかりにくいところにありました。劇場内はおろか、チケットブース、ロビーからですら直接見えない位置にあるのです。私はてっきりサティ内の設備と共用してコストダウンしてるのかとまで勝手に勘ぐりましたが、そうではないようで(笑) でもこの配置は大問題。チケットブースの位置と、売店、入場口の位置も含めて、このレイアウトは神奈川県内の他のWMCや板橋を考えると、ちょっと知恵がないかなあという気がしました。おそらく建物の構造に起因するところだと思うのですが、人の流れが完全に交錯するような形になっていて、それなりに空間はあるのに、ゆとりを感じられず、どことなく窮屈とした感じを持ちました。さてその日初日の「チャーリーズ・エンジェル」をTHX認証劇場のスクリーン9でみることにしました。ここは県内3館目のTHXシアターになります。作りは手堅く基本的にみなとみらいや板橋と同じ。スピーカーも同メーカー。シートはみなとみらいと同じヘッドレストがあるタイプでした。が・・・ | ↑すでにWMCおなじみのカラス張りチケットブース |
↑各シアター入り口には音響プレート。また9にはTHXのサイン |
まずがっかりその1。座席数に対してスクリーンが小さめだったこと。天井もやや低めで、これは今まで自分が経験したWMCのメイン館の傾向とは明らかに違いました。さらに私のがっかりに拍車をかけたのが、なーんとTHXのトレーラーがかからなかったこと。THX劇場では初めてのことでした。THXがウリの1つである以上、これはなんとかしてほしいです。しかもその日は拍車をかけるトラブルが続出。トレーラー上映時に映写のポジションの天地がずれて、フレームが欠けているのです。そうでなくてもWMCはあんな啓蒙スポットCMを映写しているだけに、「おい! ずれてんぞ! (バキュンバキュンバキュン!)」←わかる人はわかりますよね、コレ(笑) とつっこみを入れたくなります。さらにこれは無神経だなあと思ったのは、なんと「バーティカル・リミット」の予告編を2度も流したこと。今回「チャーリーズ・エンジェル」の劇場用プリントにはあらかじめ、最初についていたのだと思いますが、だったら普通のトレーラーははずすべきですね。こんな珍事は初めてで、できればやめてほしいです。音に関しても明らかにパンチ不足。傾向としては残響がやや強く、海老名の音とはまったく違います。まあならしこみが必要とはいえ、これではとても海老名に変わる存在にはなり得ない。今の段階ではレベルが高いとは言えません。 |
バーティカル・リミット(UC入間スクリーン9 SDDS+THX) |
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一方ユナイテッドシネマの関東第1号館となるUC入間は2000年12月5日にオープンしました。西武池袋線「入間市」駅から徒歩7分。市街地再開発の一環としてできたアイポットというビルの中にあります。さて1つ。このビル、アミューズメントやコンビニはあるのですが、飲食店が2軒しかありません(1件はカレー屋、1件はイタリアンレストラン「カプリチョーザ」)。建物を出ないと選択肢は増えませんので、そのあたりはめんどくさいですね。何か考えておいた方がいいでしょう(何をだ? 笑) ロビーは2フロア構造となっていて、下に1から5まで、上に6から9までの映画館が入っています。またヴァージンなどと同じように劇場入り口にスクリーンサイズなどのスペックが表記されているはいいですね。またUCはサイト上に音響フォーマットやどの映画館で上映しているかをしっかり明記してるので、出かける前にチェックしておくといいでしょう。 |
訪れた日は正月映画が多数封切られた12月9日でした。ところが中に入ってみると、今までの贅をこらしたTHXとは違う感じでビックリ・・・。予想外に小振りな劇場。そして座席数を考えるとシネコンにしてはやや小さめの画面。そしてそのシートの小ささ。いや、もちろん普通の大きさではあるのですが、シネコンに慣れてしまった私たちにしてみると、この大きさでは狭いと感じてしまいます。前後の感覚もあまり余裕があるとは言えず、人が座っているところを余裕で通過できるというわけにはいきません。また細かいことですが、カップホルダーが浅い。アームレストの前後の長さが短いために、手がホルダーのカップにあたりやすい。シートが下部中央で床に固定されているために、イスの下に荷物を置く空間がない・・・など居住の部分での犠牲が大きいように思いました。さらに一番困るのは全席指定なのでシートの番号を確かめなくてはならないのですが、シートの番号が座席背もたれの後ろにしか表記されていないため、とても探しづらいこと。普通はドリンクホルダーやアームレスト、シート背もたれのてっぺんに表記されていることが多いのですが、ここはそれがない。さらにUCは通常でも場内がサイドからのスポット照明のみのために大変暗く、とても確認しにくいのです。この点はなんとかしてほしいですね。 音の方はSDDSだったのですが、サラウンドの定位感はさすがTHX印。しかし分離感や、表現のきめ細かさはまだまだこれからといったところでしょうか。 |
ここのブースはUC岸和田と違ってガラスはなし。ある程度の座席の場所希望は聞いてくれました。 左:劇場入り口には各シアターの座席数やスクリーンの大きさ、音響設備などのスペックが明記。 右:チケットブース内にある各種音響プレートとTHX認証プレート。 |
同じ個性の映画館が大量生産される時代へ?? |
私は板橋のレポートで「WMCは映画館として今まで日本の興行界がおざなりにしてきた部分を改善し、質のよいサービスを提供したことで現在の信頼を勝ち得た。しかしもはやそれはシネコンのスタンダードとなりつつある。この世界では停滞は退化を意味する」と記しました。今までのシネコンは既存の映画館のアンチテーゼとして、全席自由定員制、きちんとした音響、快適で清潔な居住空間、上映開始時間の再考、各種割引などを提供してきたわけですが、そんなシネコンのスタンダードを作ってきたWMCは明らかに次の戦略を模索している時期にきているようです。が、残念ながらつきみ野ではそれが何かはまだみることができませんでした。ところがUC入間に出かけたあとで、両館ともに感じられたことにはっとした部分があります。それは明らかにシネコンがコストパフォーマンス追求の段階に入ってきたことです。以前はその存在自体が珍しく、噂を聞きつけて映画ファンが遠方から足を運ぶということも珍しくなかったのですが、もはやそういう段階ではないことは自明の理。一番大切なのは地元周辺の客層をいかに掘り起こし、何度も足を運んでもらうようにするかがカギになります。すると以前のような「このシネコンは素晴らしい映画館だ」というのを映画ファンにアピールするような話題づくりは必要がないわけです。むしろその地区での運営にあたって、その映画館がどれだけの投資で収益をあげられるかを基準に作られているような気がしました。ですからTHXが導入されたことも、ある程度の基準は充たしている証拠とはいえるものの、それは必ずしも最高級の印とはいえないような気がします。マクドナルドの日本1号店は店の作りも相当凝るだろうけれど、ある程度の実績を作った後は、それなりのレベルの店を大量に出店させている。もちろん全店100%牛肉パテ保証付きというケースをイメージしていただければわかってもらえるでしょうか(笑) しかしながら、その方向性は間違いではないものの、やはり寂しく感じた部分でもあります。シネマメディアージュのように贅をつくせとは言わないものの、その時その時最高レベルで勝負してもらいたいという思いがあります。特にWMCは各館に個性を持たせていくのか、それとも同じタイプの映画館を大量に作っていくかは大きな分かれ道です。私は板橋や新百合ヶ丘、みなとみらいは優秀かつ、しっかりとした個性があってとても好きです。反面茅ヶ崎などは、ただ海老名を小さくしただけのような気がして好きにはなれません。このあたりは今後も注目していきたいと思います。また、まだまだ日本の映画産業のサービスには改善の余地があるはずです。そのあたりが見過ごされてしまうとしたら寂しい気がします。もっと個性のある映画館に出てきてもらいたいと願うのは贅沢な悩みでしょうか・・・ |
(文:じんけし 2001.01記)