劇場の音響フォーマットからいかないと話が進みませんので。
まずそして70年代に大きな革命が起きます。ノイズリダクションシステムで実績を作っていたドルビー社がマトリックス処理によるドルビーステレオという業務用サラウンドシステムを開発します。これはライト・レフトの2chで収録する際、センターとリアの信号も同時に含めてしまい(エンコード)、それを再生する際にライト、センター、レフト、リアの4chに戻せる(デコード)するという画期的なものでした。SFX映画ブームなどとともに一気に普及します。さらにドルビー社は家庭用にドルビーサラウンド(レフト・ライト・リア)、そして方向性強調回路を含めたドルビーサラウンドプロロジック(今、一般にドルビーサラウンド2chといったら、このことをさします)を開発、ホームシアターブームの火付け役となります。
ところが技術的な限界があります。というのもマトリックス処理では独立したチャンネルとして保証されているわけではないので、センターとリアは音質がどうしても落ちます。またCD全盛の時代に劇場は光学式アナログトラックでは・・・ということで劇場音声フォーマットがデジタル化、先駆けとなったのはドルビー社のドルビーデジタルです。(筆者注:ドルビーステレオはその後ドルビーステレオSR(スペクトラルレコーディング)というノイズリダクション効果を高めたシステムを開発した。ドルビーデジタルはデジタル音響の再生システムのない映画館や、デジタル音声再生中に信号読みとりトラブルで音声がとぎれた際のバックアップとして必ずアナログのドルビーステレオSRの信号も収録している。そのため当初の正式名称はドルビーステレオ・スペクトラルレコーディング・デジタルで、ドルビーSRDと呼ばれた。現在もSRDと呼ばれるのはそのため) デジタル化されたことでchがレフト、センター、ライト、リアレフト、リアセンターと5つになり、また重低音専用として1つ加わって5.1chの立体音響が可能となりました。またそれぞれのチャンネルが完全に独立(ディスクリート)したので、音の分離感が向上し、音質もクリアになりました。「バットマン・リターンズ」が第1回作品で、日本では「ドラキュラ」が最初の上映作品です。翌年にはデジタル・シアター・システムズ社がCD-ROMをフィルムに同期させて再生するdtsを発表(これも5.1ch再生)、一気にデジタル化が進みます。
さてこれを民生用に導入しようとなりますが、デジタル信号ですので、ビデオテープでは無理。したがって最初に導入されたのはレーザーディスクでした。AC-3という圧縮技術が完成したことにより、ドルビーサラウンドAC-3デジタル(のちにドルビーデジタルという呼称に変更)が開発されます。当時のレーザーディスクの規格にはデジタルオーディオ信号の他にアナログオーディオ信号の収録が必須となっており、音声信号が2つある状態だったのですが、アナログの片方のチャンネルにAC-3の信号を記録するというものでした。その収録ソフトをRF出力端子付きプレイヤー、そしてデコーダーと5chのアンプで、劇場用と同じ5.1ch再生を可能にするシステムでした。余談ですがすでにLDが完全に廃れたアメリカと違って細々と生き延びている日本ではSWエピソード1がLDで発売されました。このソフトはもちろんドルビーデジタル収録されているのですが、DVDは未発売のため、LD化されている日本だけが5.1chを家庭で味わえる国となっています(笑) 一方dtsも民生用システムを開発。こちらはデータ量が多いためにアナログ片側では入りきらず、アナログの音声を残し、デジタルオーディオ部分に、dts信号を記録する形をとりました。
DVDが優れている点として、これらの立体音響を手軽に楽しめるということがあげられます。今までのような苦労は、もういりません。ぜひぜひ5.1ch再生にチャレンジしてみてはいかがですか?