IMAXデジタルシアターレポート 1
その1 その2

 2007年に品川にあったアイマックスシアターがなくなり、軽井沢のメルシャンシアターもなくなり、とうとう一般劇映画を上映するIMAX常設館がなくなった日本。そんな中、昨夏109シネマズがアメリカで始まったシネコン内にある既存館をIMAXシアターにするに改造するIMAX MPXシアター・システムを発表を導入することを発表しました。しかもそれは従来のフィルム上映ではなく、デジタル上映になるときいて、興味をかきたてられました。そんなIMAXデジタルシアターがいよいよ2009年6月19日に川崎・菖蒲・箕面の109シネマズ3サイトにオープンしました。ここでは川崎の模様をレポートし、IMAXシアターについて考察します。

IMAXの概要
 IMAX(アイマックス)はカナダ生まれの上映システムです。70ミリフィルムを縦方向ではなく水平方向に送ることで、通常の劇映画で利用する場合の3コマ分(15パーフォーレーション、通常は5パーフォーレーション)で、巨大なスクリーンで上映しても画質の低下がない上映を可能にしました。初の公式上映はなんと日本。1970年の大阪万博でした。IMAXによる第1作『虎の仔』が富士グループ館で行われたのです。その後、IMAXは1971年にカナダのオンタリオに世界初の常設館をオープンさせ、世界中に建設されるようになります。
 ただし、いわゆる劇映画の上映というより、アトラクションとしての性質が強いのも事実で、常設館の内、IMAXをドーム上にうつしだすオムニマックス(正しくはアイマックスドームと呼ぶ)のシステムと、アイマックスのシステムが半々ということでもわかると思います。これは巨大なスクリーンで上映していることで観客が疲れ果ててしまうことが大きな理由でしたが、もうひとつ大きな理由がありました。それはフィルムの取り扱いについてです。劇映画の撮影は一般的に35ミリカメラ。フィルム1巻(約10分強の上映時間)は重量が約4キログラム。70ミリで、しかも3コマ分で1コマですから、同じ上映時間で考えるとそれだけで24キログラムになる計算になります。そんな重量のフィルムですからIMAXカメラは1巻で3分強の撮影しかできません(これは現在に至るまでそうです)。さらに上映時、劇映画で120分になると全体の重量は300キログラムになる計算。そこにIMAX独特の機構(ローリングループ方式、通常上映のためにフィルム横のスプロケットホールにツメをひっかけてフィルムを送るが、IMAXではそれでは無理なので、フィルム自体の弾性を活用して送り込む方式。上映時にフィルムはレンズ後面部に真空の原理を利用して密着させる)の摩擦による静電気の問題などが絡みまして、いわゆるドラマ仕立ての劇映画はなかなか撮影されませんでした。長編劇映画などは文字通り非常識だったのです。

フィルムフォーマットの比較。 大型プラッターで映写機へ。これで45分まで!

デジタルの可能性
 方向性に変化が現れたのは2000年。作品は『ファンタジア2000』。社をあげての一大プロジェクトとしたディズニー。すでに製作環境はデジタルに移行しつつあったアニメーション製作だったため、この作品も2K環境で制作されていましたが、それを逆に4Kでデジタルブローアップした「ラージ・スクリーン・フォーマット版」としてIMAXシアターでの公開を決めました。(余談ですがこの作品は2000年1月1日から全世界一斉公開。時差の関係でアイマックスによる公式上映は日本が世界初でした。) この頃にはIMAXフォーマットのフィルムでも連続上映時間が70分まで対応できるようになり(従来は45分)、長編作品の上映への第一歩が刻まれます。このプロジェクトはこの後『美女と野獣』、そして『ライオン・キング』へと引き継がれます。(これらの作品が選ばれたのはデジタル環境で制作されていたのでデジタルデータで残されており、IMAXへの加工が比較的容易だったためです。)

『美女と野獣 ラージ・スクリーン・フォーマット版』の公開時プログラムより。IMAXについての解説ページもあった。

 このプロジェクトでIMAX社はデジタルテクノロジーに新しい可能性を見つけます。つまり従来の製作環境のものでも4Kぐらいでスキャンすれば、まったく問題ない状況になるのではないか、と。こうして一般劇映画を8K(現在。当初は4K)でスキャニングして上映するIMAX-DMRが登場しました。第1回作品になったのはロン・ハワード監督の『アポロ13』でした。プロジェクターの限界で上映時間は120分の短縮版になりましたが、この試みは一定の評価を得ました。その後、『スター・ウォーズ エピソード2』もIMAX-DMRによる短縮版で上映されています。この頃はIMAX全面に上映するために画面アスペクトは4:3になるようにトリミングしたり、デジタルによる再変更などを行っていたようです。そしてついに『マトリックス・リローデッド』で本編ノーカット、画面サイズもオリジナルというIMAX-DMRの最終形になります。この技術はIMAXによる家庭用ソフトウェア、および通常劇場との差別化による新しい興行価値を模索していた配給側、そしてコンテンツの供給不足に悩んでいたIMAX社と劇場主の思惑が一致する形となり、アメリカではシーズンの話題をさらうような作品はIMAX-DMRで公開されるようになりました。
 IMAX-DMRはさらに別のテクノロジーとも融合します。IMAX3Dという技術で立体作品が多数上映されていました。かつての立体技術は複数のカメラによる撮影で偏光ズレを記録していましたが、デジタル処理によって通常撮影から立体映像による上映が可能となりました。これによって世界初のIMAX3Dによる長編劇映画がロバート・ゼメキスによる『ポーラー・エクスプレス』です。この技術はIMAX-DMRにも応用されブライアン・シンガー監督の『スーパーマン・リターンズ』のように劇中に立体映像の場面がある作品も登場します。全編3Dというのはアニメーション、そしてドキュメンタリーでしか現在のところ登場していませんが、技術的には可能な状況になっています。
 そして今回登場した上映システムがIMAXデジタルです。前述したフィルムによる制約が大きかったIMAXですが、IMAXデジタルはテキサスインスツルメンツ社のDLP CINEMAの映写機技術を発展させた形でデジタル上映を可能にしました。当初私が疑問に感じていたのは、特に高解像度のチップを用意するわけではなく、またただ高輝度にするだけではIMAXのような画質は得られないのにどうするのであろうかという点。IMAXデジタルはなんと2台のプロジェクターの同時使用という技術で可能にしました。

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