−日本アニメの飛翔期をさぐる−
7/15〜8/31 川崎市市民ミュージアムにて開催
上映企画「戦後日本のセル・アニメーション」

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関東の公共施設の中では近代美術館フィルムセンターと並んで意欲的な特集上映を年数回行っている川崎市市民ミュージアム。なにしろ今井正、ATGからソ連映画、はてはケン・ローチまでやってしまう映画好きを「おおっ!」と唸らせる懐の深い企画が魅力的である。しかも施設は綺麗だし、なんといっても安い。大人は500円。スカラチケットという回数券を使うと1回あたり400円でみられるのだ。川崎市民(しかも店主の家から目と鼻の先と言ってもよいほどのご近所さん(笑))である私は、今までも紹介したいと思っていたのだが、そんな矢先、またまた意欲的な企画が登場した。1960年代の東映動画作品に関して資料展示を行うという。またそれにあわせた上映企画も行うとのこと。さっそくおじゃまして、川村健一郎学芸員(映画担当)にお話を聞くことができた。
−まずこの企画の出発点から教えてください。
川村さん「2年ほど前、東映アニメーション(旧東映動画)から展覧会が開催できないかというお話がありました。手元に大量のセルをはじめ、いわゆるライブアクション映像のスチルをふくめた資料があると。今までも東映動画自体がそういう企画で展示というのはされていたそうなんですが、こういった美術館でとりあげてもらうということはなかったということでした。そういう意味では私たちは早いうちから漫画という部門を設けておりましたし、漫画(筆者注:川崎市市民ミュージアムは近現代の美術館の中では漫画という部門を本格的に扱っている先駆けの施設であり、今までも少女漫画をとりあげたり意欲的な展示を多数行っている)と映画とそれぞれの部門で協力してアニメーションに積極的に関わってきました。そういった意味でもとりあげたいという思いがありました」
−なぜ東映動画を中心に取り上げようと考えたのですか?
川村さん「近年さまざまなところでこのような企画がとりあげられています。お客さんがよく入るというのもあるようなんですが(笑)。そんな中で東映動画さんからの話もきっかけのひとつなのですが、やはり日本のアニメーションの今、の幕を開けたのが東映動画という点があげられるかと思います。ご存じのように東映動画は人材の宝庫で、現在活躍している宮崎駿、高畑勲をはじめ、数多くの出身者がいます。また戦後、セルアニメの形で商業的な領域での成功を収めたわけですが、そんなシステムをスタートできたのが東映動画でした。というのもアニメ映画作りにはやはり大規模な資本、かつある程度の技術水準が必要でした。たとえば戦前にも「桃太郎・海の神兵」のような優れたアニメーションの映画は存在していたわけですが、そこには国策という背景があって、そういう状況でなければ作れなかったという事実があります。それまでのアニメーションはほとんど自宅での手作業に近いものがあり、納品先も官公庁が主でした。つまり大人から子供まで楽しめる作品を作り上げるシステムがなかったわけです。そんな中、1956年に東映動画が誕生した。大川博(当時の東映社長)のアイディアはさすがだと思うのですが、ディズニーなどのスタジオを見学しながら最新技術を反映できるようにもしましたし、戦前のアニメーターたちを制作部長などで引っ張ってくるなど、優れた人材と大量の人員も確保した。アニメーション制作システムの近代化、これが現在にもつながっています。日本のアニメーションが現在国際的に高く評価されている中で、その原点と呼べる戦後の東映動画に注目することは意味があると思います」
−さて上映企画である「戦後日本のセル・アニメーション」についてお聞きます。作品の選定に関してはどのようにして決まったのでしょうか? というのも東映動画初期作品があまりないのですが・・・
川村さん「アニメーションというのは再上映、もしくは歴史的な回顧をされるということが前提とされてないという事情があります。子供がみるという需要を考えるとそれはテレビであったりビデオであったりするわけで、すなわち劇場でもう一度作品をかけるということが少ない。またあっても教育目的で市民館などでの16ミリ上映を行うケースが多い。ということで初期作品で上映できる35ミリプリントの数に限りがある、またのです。最初我々の方も展示に合わせた形でほかの作品もアプローチしたのですが、35ミリプリントがないということで(筆者注:市民ミュージアムでは原則35ミリプリントでの上映を行っている)、ニュープリントを作る予算はありませんから、あきらめることにしました。ただ幸運なことに、数年前東映動画 人気投票を行いましてランキング上位9作品だけはニュープリントが焼かれていたんです(筆者注:東映が東映動画誕生40周年を記念して人気投票をもとに丸の内シャンゼリゼなどでニュープリントの回顧特集上映を行った。ちなみに第1位は『長靴をはいた猫』だった)。それらの作品はそこで特集上映されていたので、同じ事をしても仕方ない。そこで今回の上映の方ははずせない初期作品のみにとどめて、別のアプローチとして、東映動画出身の人脈という流れで選定してみました。充分ではないと思うのですが、現状では予算の範囲というのもありますし、その中で出発点としての東映動画から現在までを戦後の日本アニメーション映画を眺められるようにしてあります」
−特に見て欲しいという部分はありますか?
川村さん「やはり映画館で上映するためにフィルムで作られたものなので、スクリーンで体験してほしいというのがあります。こうやってオリジナルの35ミリでアニメーション作品がまとめて上映される機会は少ないですから」
−それから展示に関してですが、特に見て欲しいという部分はありますか?
川村さん「展示に関しては当館の漫画部門が担当しているので、くわしくは申し上げられませんが、東映動画の初期フィルム作品にを中心にしています。ライブアクション(この当時、ディズニーなどがアニメーターが動きの参考にするために実際に役者や動物を実写で撮影した。この思想はやがて現在のモーションキャプチャーなどにつながっているといえよう)の写真、ポスター、キャラクタースケッチ、宣伝用セル、撮影用セル、絵コンテ、クレイモデルなど、特に作品が作られる経緯を説明する段階のものが数多く展示されています。面白いものも数多くありまして、たとえば西遊記に参加した手塚治虫は絵コンテも描いているのですが、その絵コンテが映画的じゃなくて漫画的なんです。漫画の場合は読者の我々がコマとコマのつなぎを想像力で補うわけですが、絵のつながりに流れを感じにくい。アニメーターの手による同じ場面の絵コンテと比較すると大変興味深いです。美術館ならではの少しつっこんだ内容で戦後日本のアニメーションの原点を検証します。また東映動画のフィルム作品だけでなく、その前史やテレビ作品にふれたコーナーもあります。ぜひごらんになってください」

上映プログラム
(プリントはすべて35ミリ *は学芸員さんのポイントアドバイス)

7月22日(土) 13:30
16:30
白蛇伝(1958)
西遊記(1960)
*なんといっても原点です。
7月23日(日) 13:30


16:00
ひょうたんすずめ(1959)
ある街角の物語(1962)
展覧会の絵(1966)
ひょっこりひょうたん島(1967)
7月29日(土) 13:30
16:30
千夜一夜物語(1969)
クレオパトラ(1970)
*虫プロ作品です。手塚治虫は「西遊記」に関わったあと、以前から抱いていたアニメーションの夢が刺激されて「虫プロ」創設につながっていくわけです。長編2本は子供向けではないのですが、すでにこの時点で大人にも目を向けたというコンセプトはさすがだと思います。
7月30日(日) 13:30
16:00
太陽の王子 ホルスの大冒険(1968)
長靴をはいた猫(1969)
8月5日(土) 13:30

16:00
パンダ・コパンダ(1972)
セロ弾きのゴーシュ(1982)
ルパン三世 カリオストロの城(1979)
*この2日間は宮崎、高畑コンビですね。ジブリ作品も考えましたが、すでにもう有名ですのではずすことにしました。ですからジブリ以前の彼らのものを入れたかったのです。こちらもよく知られていますが。ジブリのテイストを存分に味わって欲しいです。
8月6日(日) 13:30
16:30
さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち(1978)
テクノポリス21C(1982)
8月12日(土) 13:30
16:00
龍の子太郎(1979)
少年ケニヤ(1984)
8月13日(日)  13:30
16:00
宇宙皇子(1989)
ルパン三世 くたばれ!!ノストラダムス(1995)
*今回のセレクトにはもうひとつの視点があって、劇映画の人材との交流という点です。ヤマトを皮切りにして大作アニメが興行的に成立しやすくなった中で、舛田利雄、浦山桐郎、大林宣彦など、劇映画の人材がさまざまな形でアニメーションと交流・貢献しているという点に注目しました。この3日間はそういう意味もあります。
8月19日(土)  13:30
16:00
シュンマオ物語 タオタオ(1981)
紫式部 源氏物(1987)
8月20日(日)  13:30
16:00
うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー(1984)
MEMORIES(1995)
*一応今の両巨匠を入れておきました。人狼も大ヒットしてますし(笑)。
映像ホール情報
入場料:大人500円 小中学生300円
スカラチケット10枚綴り 4000円
*各回入れ替え制
*開場は上映開始時刻の15分前ですが、混雑状況によって早まることもあります。
*チケットは入場の時に販売。作品による前売りはありません。なお定員が270名ですので、満員の時は入場を断られることもあります。

個人的な意見だが、ジブリのアニメーションがこれほど人気を博している要因に、キャラクターを受け入れやすいという要因があると思っている。つまり東映動画の宮崎駿などがキャラクターデザインを手がけてきたわけで、今の大人の世代は幼い頃に「アニメの顔はこういうもの」というすり込みを受けていると思う。現にアニメーションだからといって何でもかんでも大ヒットしているわけではない。アメコミ風のタッチに拒否反応を示すのとは対照的である。漫画界で手塚治虫の影響力を否定できない(手塚に似ていても、まったく違っていても)のと同様に、アニメの世界でも東映動画からの影響は逃れられないのだと思う。(この話を川村さんにしたら笑っていたが、なるほどとおっしゃっていただいた)。また東映動画も含め、60年代作品はシネスコサイズのものがほとんどで、ビデオでは残念ながらトリミングサイズのものも多い。LDなどに関しては東映は良心的で、オリジナルサイズのニューマザーで商品化しているが、DVD化がすすむ現在にあってはLDはほぼ壊滅状態。DVDが出るまではオリジナルサイズで楽しむチャンスはほとんどないのだ。というわけでこれはぜったいに出かける価値のあるプログラムである。ぜひぜひ足を運んでみよう。

イベント
アニメ作家記念対談
「東映動画が日本アニメにもたらしたもの」
7/20:14:00〜 映像ホールにて
出席者:大塚康生氏 高畑勲氏
(入場無料なのですが参加申込制で応募締め切りは過ぎています)

学芸員による展示解説
7/15&7/16 いずれも14:00〜企画展示室
アクセス情報
開館時間=9:00〜17:00(入場は16:30まで)
休館日=月曜日 および 7/21
観覧料=一般900円、小中高大生400円
主催=川崎市市民ミュージアム・読売新聞社・美術館連絡協議会
協賛=花王(株) 特別協力=東映アニメーション(株)
交通案内
JR南武線・東急東横線 武蔵小杉駅下車
JR北口バス乗り場からバス10分
※ヴェルディ川崎、川崎フロンターレのホームグランド「等々力競技場」の
近くです。徒歩でも行けなくはないですが、バスをおすすめします(じんけし)

市バス−杉40 市民ミュージアム行 もしくは中原駅行
↑このバスが下車後、一番わかりやすく本数もあるので便利です。
市バス−溝05第三京浜入口行(市民ミュージアム経由)
↑このバスは経由地がちがうものがあるので注意。
「市民ミュージアム前」下車徒歩2分

東急バス−溝02 溝の口駅行
「等々力グランド入り口」下車徒歩8分
このバスはJR南武線・東急田園都市線溝の口からも(「小杉駅行」で)利用できます。
またJR川崎駅からも東急バス−川33 市民ミュージアム行が出ています。

おまけ情報:Jリーグ開催日は市民ミュージアムすぐそばの「等々力グランド入り口」まで
バスも大幅増便され便利ですが、大混雑しますので時間には余裕を持った方がいいです。
お問い合わせ先
川崎市市民ミュージアム
川崎市中原区等々力1-2(等々力緑地内)
TEL:044-754-4500
http://www.dnp.co.jp/museum/kawa/kawa.html