あえて言いたい。あなたに証言者になってもらいたい。
『ユンカース・カム・ヒア』
わずかな希望に託して

 とにかく一言! これは大傑作です。でもきっとこれをご覧になっている方は半信半疑でしょう。私も実はそうだったんです。昨年サイトの取材で不幸にして映画館での上映が危ぶまれた3本の映画をとりあげました。うち2本はすでにみていて内容も評価できたし、なんとか映画館でとはたらきかけている方々の熱意にも心動かされるものがありました。ところがもう1本、みていない、もっと正確に言うとみることが叶わない作品がありました。それがこの『ユンカース・カム・ヒア』です。「何言っているんだい、きっと取材した手前の外交辞令だろ」とつっこまれる方。私はみた映画に関してはウソはつきません。ちょうちん記事書くほどの影響力はありませんし(汗)、確かに上映会の活動をされている濱田さんたちには敬意を表していますが、それは活動に対してであって、作品とは別物です。この作品は日本のアニメーション映画の賞ではもっとも権威ある1つ、毎日映画コンクールアニメーション映画賞を『耳をすませば』を退けて受賞しています。しかし残念ながら興行的に成功しなかったために、現在に至ってもDVDはおろか、ビデオにすらなっておらず、幻の作品になっています。
 さて物語は小学校6年生のひろみという女の子を主人公にした実にスタンダードなドラマになっています(脚本はあの『熱中時代』をはじめとするTV界の第ベテラン布勢博一)。そう、文学で言うならば名作「にんじん」などにつながる系列といってさしつかえありません。前半、映画はひろみの日常をきめこまかく丹念に描いています。下高井戸に住む裕福な家庭でありながら、両親と接する時間が少ない寂しさを心の中で我慢している女の子。驚くべきはそのセリフや仕草にウソがないこと。ちまたでは今、子どものあり方がいろいろ問われていますが、問題行動をおこしてしまう子どもはまだ大人に自分の心の内を訴えかけられるだけ幸せという見方も出来ます。一番考えなくてはいけないのは一見大人の言うことをよくきく分別がある子どもたちのことではと思うのです。大人たちに「大丈夫!」と言えてしまうが故に、大人たちに気にかけてもらえない。その「なぜその子が『大丈夫』と言えるのか」というその子の心の奥は誰からも支えられない。それを信頼と呼ぶのはたやすいけれども、でも子どもたち不安でいっぱいであって、それを大人や親が支えてくれるという安心感があるから、乗り越えられる時期。そんな子どもの姿を決してデフォルメ化せず、ステレオタイプにもせず、きちんと描いていることが見事です。またこの作品はイマジネーション豊かなファンタジーでもあります。そう、レイモンド・ブリックスの絵本のような肌触り。言葉をしゃべる犬ユンカースとの交流を話の主軸にせず、話をひろげる緩衝剤の役割にした選択は賢明です。そして3つめの奇跡のフライングシーンの美しさ! 「E.T.」「ピーターパン」に勝るとも劣らない名場面です。ここだけでもこの映画は名作の名にふさわしい品格をもっています。秀逸な美術(パステルタッチのあたたかさ)、不必要にアングルを変えない堂々たる演出。クライマックスの主人公の優しさと美しさには、私は抱きしめたくなるような愛おしさと切なさを感じました。そして、ただただ涙するしかありませんでした。「ユンカース・カム・ヒア」は普遍性とオリジナリティをあわせもった絶対必見の名作です。
 何を隠そう私は昨夏、1週間の上映期間中、いろいろと用事があったのですが、それを何とかして結局2回「ユンカース・カム・ヒア」を見に行きました。最終日ということでお客様も多く、上映後にはモデルになったシュナウザー犬のユンカースくんも来館! 作品ではもちろん号泣(笑) 本当に素晴らしい映画です。
 上映後、濱田さんとお話しすることが出来ました。そして現状としては難しい部分が本当にたくさんあるというお話をうかがいました。たまたまそのお店で同席した家族が、「ユンカース・カム・ヒア」をご覧になった方々で、小学生の女の子が「なんでビデオにならないの?」と聞いていました。本当です。何でですか! そのことを思うとやるせなくなってきます・・・。すごく印象に残った言葉。「中身はしっかりしている。ジブリ作品といってもさしつかえないクオリティとテーマ。じゃあ、何が違うのかといえば開巻部にジブリのマークが入っているかどうか(笑)」 でも本当にそうなんです。私もそこはすごく危惧している所なんです。最近映画の宣伝がファッション化の傾向に拍車がかかっている。その結果、ヒットする映画とヒットしない映画がはっきりわかれる1本かぶりという現象が頻発しています。昔からよい作品が必ずしもヒットしていたわけではありませんし、ライフスタイルも変わっているから仕方がない部分もありますが、でもちょっと目に余る部分があります。作品の本質があまりにもおざなりにされている。イベント映画でないものまでが宣伝をイベント化している。これは本末転倒だと思うのです。
 まだマユツバに聞こえる方、そんなあなたにあえていいたい。そんなあなたにこそみていただきたい。そんなあなたに証言者になってもらいたい。この作品がこのまま消えていったら、いま映画史に名前のみを残し、みることが叶わなくなってしまった数々の名作佳作群に、この作品が無言でリスト入りするだけなのです。この作品を救おうなどと大それたことは申しません。ただご自分の目で確かめてください。それだけです。(文・じんけし)

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緊急告知!
ここまで来たら自分の目で確かめるしかないでしょう!
◆下高井戸シネマにて2001年7月モーニングショー決定!
『ユンカース・カム・ヒア』上映会
場所:下高井戸シネマ
(京王線・世田谷線 下高井戸駅下車 徒歩1分)
日時:7月21日(土)〜28日(金) AM10:00より朝1回だけの上映です
料金:大人・学生 1,300円 / 小人 1,000円

詳細は『ユンカース・カム・ヒア』を観る会
http://member.nifty.ne.jp/junkers-come-here/