新作映画の試写が行われる! はたまた新作映画のプロモーションにハリウッドの大スターが来日した! するとその訪日スケジュールのコーディネートを行う。そんな華やかな部分であこがれている人も多いであろう映画の配給という世界。では具体的にどんな仕事をしているのであろうか。少しまとめてみよう。なおここでは主に外国映画の配給に関する話にしぼってみました。
メジャーとインディペンデント
まず配給会社には大きくわけて2種類ある。ひとつはメジャーと呼ばれるハリウッド系の配給会社。ハリウッドの制作部門と直結していたり、また配給部門の日本支社という形も多いので、作品の確保はアメリカ本社が行い、自動的に配給作品が決定する。一方インディペンデントと呼ばれるのは日本資本の配給会社。こちらは作品ごとの契約だったり、独立プロと製作本数による契約だったりする。こちらの方は配給会社ごとの交渉となる。
メジャー5社 | |
UIP | ユニバーサルとパラマウントの作品を配給。「ジュラシック・パーク」「恋に落ちたシェイクスピア」 |
ブエナビスタ | ディズニー系列の作品を配給。「ダイナソー」「アラジン」「キッド」「アルマゲドン」 |
20世紀FOX | FOXとMGM/UA系列作品を配給。「スター・ウォーズ」シリーズ、「エイリアン」「X−メン」 |
WB | ワーナー系列作品を配給。「マトリックス」「交渉人」 |
SPE | ソニーピクチャーズ系列作品を配給。「バーティカル・リミット」「ゴジラ」 |
主なインディペンデント(主にチェーンで公開する作品を配給) | |
東宝東和 | 東和時代からの老舗。古くはヨーロッパ映画、「ターミネーター2」やジャッキー・チェン作品 |
日本ヘラルド | 興行両者に提供できるインディペンデント界の雄。「氷の微笑」「スリーピーホロウ」「エリザベス」 |
ギャガ | 多角的な経営で近年成長著しい新興会社。「セブン」「グリーンマイル」「ラッシュ・アワー」 |
主なインディペンデント(主にミニシアターで公開する作品を配給) | |
アスミック・エース | アスミックとエースピクチャーズが1998年に合併。「トレインスポッティング」「ファーゴ」「スクリーム」 |
KUZUIエンタープライズ | 米国インディを中心に扱ってきた。「シャイン」「サウスパーク」「トリコロール」三部作など |
シネカノン | 韓国映画「シュリ」で一気に注目を浴びる。今後ドリームワークス作品も手がける可能性あり。 |
フランス映画社 | BOWシリーズなどでベンダースやジャームッシュを紹介。「ピアノレッスン」「ベルリン天使の詩」 |
プレノン・アッシュ | 香港映画といえばここ。「恋する惑星」「天使の涙」「ブエノスアイレス」では製作にも携わる。 |
ユーロスペース | 欧日協会から長い歴史を誇る。カラックス、キアロスタミから原一男まで。「ポンヌフの恋人」 |
ケイブルホーグ | 別ページ参照 |
映画が配給されるまで
では実際に配給されるまでの流れを簡単にまとめてみる。
1:買い付け
簡単にいえば制作者側と配給側がはじめて接触する部分でここで契約となる。しかしこれがケースバイケースで千差万別。基本は映画祭やフィルムマーケットなどでの買い付けだが、近年は企画段階で資金調達のために権利を売買するプリセールという形が多くなってきたり、また独立プロとの契約で製作前に優先的に本数をまとめて権利を取得する形の包括契約などもある。メジャー系の日本の配給会社はこの段階が基本的にない。
2:プリントの輸入
契約が成立したらプリントを輸入する。作業としてはもっとも事務的な手続きが煩雑で面倒くさいとのこと。ここでトラブルが起きることも結構あるようで、試写のスケジュールを逆算してみた締め切りギリギリにようやく到着というケースは日常茶飯事らしい(笑) またここで通関があるのでいわゆる性器描写などに関する修正を求められるのもこの段階。(映倫は完成品をみてチェックを入れるので、ぼかしが入る元凶とはいいがたいのです、ハイ)
3:字幕翻訳
戸田さん、出番です(笑) 通関すると字幕をつける作業になる(大急ぎの時は最初のチェックを保税試写の時に行ってしまうこともあるらしい)。ここはここで奥が深い世界なのでさらっといってしまいますが、人様が考えるよりは相当時間の余裕はないようで。
4:映倫審査
ここで字幕がついた完全なプリントを映倫で審査となる。映倫に審査済み作品は必ずタイトルの横にマークの焼き込みがある。なお映倫は業界の自主規制団体で法的な効力はない。だったら映倫なんてめんどくさいと思われる方も多いだろうが、実は日本の商業劇場では映倫をパスしていない作品は原則として上映できない。なぜならほとんどの劇場は全興連に加盟しており、ここに加盟している映画館は映倫通過作品しか上映できないという規定があるから。また映倫がチェックするのは本編だけでなく、予告編、そしてポスターもだって知ってました? そういえば役所広司主演「シャブ極道」というタイトルにいちゃもんをつけたのも映倫・・・(笑) またレイティングを決定するのも映倫で、なんか最近日本もいろいろと増えてきましたね。なお米国にもMPAAという団体があり、こちらはこちらでチェックは厳しい。「もののけ姫」をR指定にしました。
5:配給
やっと本業登場。つまり興行側との交渉の段階です。そもそも配給とは正確には作品の上映を劇場に委託することをいいます。とうぜん配給側はいい劇場をおさえたいわけですが、そうそううまくいくわけではなく、また公開時期もずーっと先になったり、なぜかすごく急に決まったりということもある。
6:宣伝・パブリシティ
劇場が正式に決まるとおのずと公開時期も決定してくる(ただし何度もいいますが、必ずしも希望通りに行くとは限らない)ので、そこから逆算して宣伝プランをたてていく。宣伝にもさまざまなメディアがあり、このあたりはターゲットにする客層ともマッチするよう、知恵を働かせるところであるが、小さな作品などはなかなか紹介してもらえないこともある。また口コミを狙ったり、プレスに紹介してもらうために試写のスケジュールを組むのも大切な仕事である。よく雑誌などで話題作の独占試写などが募集されているが、あれも立派なパブリシティの一環である。また宣伝業務を専門にうけもつ会社もある。
7:公開
やっとです。長いですねえ、ここまで。でもこれからも厳しいんですよ(涙) まず初日の成績(うちこみってやつですね)で大体今後の展開が読めちゃいます。長年の経験がありますから興行関係者も夢はみません(汗) もう少し具体的にいうならば、この時期例年だとうちの映画館はこのくらいっていうラインがあります(アベレージ)。まあ、何週間契約という場合もあるので一概にはいえませんが、それを下回るとほぼ打ち切り決定です。
8:後処理
まだまだ仕事があるんですよー(笑) まずは儲けの配分。その前に言葉の説明。まず劇場に入場する人の有料入場料金総合計を興行収入といいます。そこから劇場(興行)の取り分を除いた額が配給収入です。5の段階でその取り分の比率を決めておくんですが、それでもこの段階でもめることがあります。なぜなら興行の行方は神様しか知らないから(笑) 「ホーホケキョとなりの山田くん」がジブリ作品にもかかわらず、なぜ松竹での配給となったかは、その前の「もののけ姫」の記録的なヒットのあと、その取り分でジブリと東宝がもめたのが原因というのがすっかり通説になってしまいました。また配給会社はもともとの権利者に対してもきちんとレポートする義務があります。というのも利益を歩合で分配する契約も少なくないから。また二次使用に関して。上映した作品の二次使用の権利をすでに取得している。もしくは今後それを誰かに売りたいなどの時は、このあとビデオや地上波放映の権利をセールスしなくてはいけません。
というわけで、やはり大変な世界ですね。何より最初の投資から利益回収まですごく長い時間がかかること。これがこの世界の大きな特徴といえるのではないでしょうか。しかし配給会社がなくなってしまったら、特にインディペンデントの配給会社がなくなったら、それこそ日本ではみられなかった作品が、すごくたくさんあったかもしれないと思うと、ちょっと怖い気がします。最後に就職のこと。基本的に定期採用を行っている会社はとても少ないです。また募集をするときも即戦力・経験者優遇の姿勢をとるところが多いですね。かなり狭き門です。
なお本コーナー執筆に当たり参考文献にした「外国映画ビジネスが面白い」(キネマ旬報社)はさらに詳細に書いてあります。この世界のことをもっと知りたい方は必読の一冊です。(文:じんけし)